「19世紀後半に『光栄ある孤立』と呼ばれた非同盟政策を取った国はどこか」という問いに対するストレートな回答は、大英帝国(イギリス)です。英語では「スプレンディッド・アイソレーション(Splendid Isolation)」と表記され、高校の世界史から国際政治学の専門講義に至るまで、近代外交の極めて特異な成功事例として必ず登場する外交ドクトリンです。
この言葉が象徴するのは、19世紀後半のイギリス外交政策における基本原則でした。当時のヨーロッパ大陸では、ビスマルク指導下のドイツ帝国を中心に、オーストリアやロシア、イタリアなどが互いに防衛条約や秘密協定を結び合う「同盟網の時代」に突入していました。しかしイギリスは、欧州大陸内の特定国家と平時から義務を伴う強固な軍事同盟を結ぶことを徹底して忌避したのです。
イギリスの非同盟政策の真相は、決して引きこもり型の孤立主義(モンロー主義)ではありませんでした。欧州大陸で圧倒的な強国が現れて勢力均衡(バランス・オブ・パワー)が崩れそうになれば、巧みに介入して現状を維持しつつ、自らは同盟の鎖に縛られずに世界各地の植民地獲得や通商路(シーレーン)の確保に全力を注ぐという、極めて計算高い実利主義外交だったのです。