ひし美ゆり子(本名:境屋地谷子、旧芸名:菱見地谷子)のキャリアは、1965年に東宝のニューフェイス(東宝俳優養成所)へ入所したことから始まりました。若い頃の彼女は、瑞々しい美貌と抜群のスタイルを持ちながらも、本人の弁によれば「映画スターになりたいという猛烈な野心があったわけではなく、どこか時代の風に流されるようにして入った世界だった」と自著や過去のロングインタビューで述懐しています。
そんな彼女の運命を決定づけたのが、1967年に放送を開始した円谷プロダクション制作の特撮テレビドラマ『ウルトラセブン』でした。彼女が演じたウルトラ警備隊の紅一点・友里アンヌ隊員は、日本のテレビ史における「特撮ヒロイン」の原点にして最高峰として不動の地位を築きます。
この歴史的キャスティングには、現場の切迫した舞台裏が存在しました。当初アンヌ隊員役に決定していたのは東宝の若手有望株であった豊浦美子氏でしたが、松竹配給の映画出演とのスケジュール重複により、撮影直前で突如降板。急遽白羽の矢が立ったのがひし美ゆり子でした。連絡を受けた翌日には砧の円谷プロへ駆けつけ、すでに仕上がっていた前任者サイズの隊員服に無理やり身体を滑り込ませたという逸話はファンの間でも有名です。
採寸をやり直す時間すらなく、体に食い込む窮屈なユニフォームをピンで留めながら撮影に挑んだ彼女の初々しさと、女性らしい曲線美、そして何より知的で凛とした眼差しは、子ども向け特撮番組の枠を完全に超越していました。男性隊員と対等に現場へ出動し、時に傷ついたモロボシ・ダンを優しく包み込むアンヌ隊員の姿は、当時の少年たちの初恋の対象となっただけでなく、自立した働く女性像の先駆けとして視聴者の脳裏に刻み込まれました。