機内で耳が詰まった際、焦りから力任せに鼻をつまんで強烈に息を吹き込む人が後を絶ちません。しかし、この自己流の過剰な加圧は非常に危険な行為です。中耳腔の粘膜が高度な陰圧によって充血している状態で急激な超高圧をかけると、鼓膜の毛細血管が破れて出血したり、最悪の場合は鼓膜そのものが破裂(鼓膜穿孔)したりする事故につながります。
さらに見落とされがちなのが、「風邪や花粉症に罹患している状態での搭乗」です。鼻腔の粘膜が炎症を起こして腫れ上がっていると、耳管の入り口(咽頭口)が物理的に塞がれています。この状態でバルサルバ法を試みると、鼻の奥に滞留しているウイルスや細菌を含んだ粘液を中耳腔内へ高圧で押し込む結果となり、細菌性の急性中耳炎を併発して激しい排膿と高熱に苦しむケースが臨床現場で報告されています。
また、「フライト中に寝ていれば痛みをやり過ごせる」という認識も完全な間違いです。睡眠中は嚥下(飲み込み)の頻度が覚醒時の数分の一に激減します。客室乗務員のアナウンスで降下が始まっているにもかかわらず熟睡していると、耳管が一度も換気されないまま地上まで急激に気圧が上昇し、目覚めたときにはすでに重度の航空性中耳炎が完成しているという悲惨な事態に陥ります。着陸の30〜40分前には必ず目を覚まし、換気に備えるのが賢明な防衛策です。