女性用小便器の歴史を語る上で欠かせないのが、昭和30年代から40年代にかけて起きた高度経済成長期の熱気です。当時、日本を代表する衛生陶器メーカー・東洋陶器(現在のTOTO)は、大規模イベント会場における女子トイレの混雑緩和という難題に直面していました。男性用小便器に比べて圧倒的に専有面積と利用時間がかかる女子トイレの行列をどう解消するか。その答えとして1951年にアメリカで考案された器具を参考に、1964年に実用化されたのが女性用小便器「サニスタンド」でした。
サニスタンドが最大の晴れ舞台を迎えたのが、1964年東京オリンピックです。メイン会場となった国立霞ヶ丘競技場(旧国立競技場)のスタンド下にズラリと並んだサニスタンドは、世界中から集まる観客を捌く切り札として大きな期待を集めました。当時の報道関係資料でも「トイレ革命」として華々しく取り上げられ、設計者や衛生管理の専門家からは省スペース・高効率を実現する画期的プロダクトとして称賛を浴びたのです。
現在でも、福岡県北九州市にあるTOTOミュージアムの展示エリアには、当時のサニスタンドの実機が保存・展示されています。現代の便器とは明らかに異なる、細長く前方にせり出した独特のフォルムは、来館者の目を引きつけ続けています。