二人の関係を語る上で避けて通れないのが、長年にわたる骨肉の確執です。佐藤浩市さんが小学5年生の冬、三國さんは家族を捨てて家を出ました。映画と女性を愛し、生活のすべてを芸道に捧げた三國さんにとって、家庭という枠組みはあまりに狭すぎたのかもしれません。残された母と浩市さんの苦労は筆舌に尽くしがたく、浩市さんは青年期まで父に対して「激しい嫌悪と憎しみ」を抱き続けていたと当時の手記や特番インタビューで回想しています。
確執が決定的となったのは、浩市さんが俳優の道を志した際、三國さんがメディアに対して放った「佐藤君とは他人ですから、彼が役者をやろうが知ったことではない」という冷徹な突き放しでした。しかし、この冷酷とも思える言葉こそが、浩市さんの反骨心に火をつけます。
雪解けへの第一歩となったのは、1986年の映画『人間の約束』(吉田喜重監督)での初共演でした。劇中での直接的な絡みは少なかったものの、現場の緊張感は異様なものでした。そして1996年、映画『美味しんぼ』にて、原作の海原雄山と山岡士郎という「確執を抱える父子」役で真っ向から対峙することになります。
制作発表記者会見で三國さんが「佐藤君に胸を貸すつもりで」と語れば、浩市さんが「貸してもらうつもりはない」と切り返すなど、本物の親子関係がそのまま役柄に投射されたような壮絶な火花が散りました。しかし、カメラの前で本気で拳(演技)を交わし合ったことで、二人は「憎むべき父と子」から「互いを認め合う役者同士」へと劇的な脱皮を遂げたのです。