1990年代末、日本の音楽シーンは小室哲哉プロデュースに代表されるハイテンポな打ち込みポップスが席巻していた。その真っ只中に現れたのが、ニューヨーク育ちの15歳、宇多田ヒカルだった。当時、彼女の才能をいち早く見抜いた東芝EMIの制作陣は、従来の歌謡曲的なプロモーション手法を捨て去り、純粋な音楽性だけで勝負する異例の戦略を選択した。
『First Love (楽曲)』のレコーディングにおいて、宇多田ヒカルは当時わずか15歳から16歳。驚くべきは、デモテープの段階でほぼ完璧なメロディとコード進行、そしてあの印象的な英語と日本語のシームレスなフロウが完成していた点だ。制作に関わったエンジニアたちが証言するように、彼女のボーカル録音はほとんどテイクを重ねることなく、神がかった数回の歌唱で決定稿となった。計算された技巧ではなく、思春期特有のヒリヒリとした体温と剥き出しのエモーションが、そのままマスターテープに刻み込まれたのだ。