物語は「上野発の夜行列車」という、昭和の旅情を象徴するワンシーンから幕を開けます。東京という巨大な街で愛を失い、逃げるように乗り込んだ列車。周りの乗客が押し黙る中で、主人公はただひたすら北へと向かいます。この冒頭の描写が見事なのは、移動する距離の長さと、彼女の胸の奥底で深まっていく孤独の深さが完全に一致している点です。
雪に煙る青森駅に降り立ち、乗り換える船へ急ぐ人々の群れ。誰もが家路を急ぐなか、自分ひとりだけが帰る場所を失っているという痛切なコントラストが描かれます。言葉を発することなく息を白く吐き出す女性の背中には、やり場のない哀しみと、引き返すことのできない人生の岐路が鮮烈に刻まれています。