産業機械や工場の生産ラインに設置されている赤色の「キノコ型非常停止ボタン」。電気図面を開くと、この非常停止スイッチには100%例外なく「b接点」が使用されています。「止めるためのボタンなのだから、押したときに信号を送るa接点でも良いのでは?」と疑問を抱く初学者も少なくありません。
ここには、産業安全工学の根幹原則である「フェイルセーフ(Fail-Safe:装置が故障したときは、必ず安全側に動作させる設計思想)」が厳格に反映されています。
仮に、非常停止ボタンをa接点で回路設計した場合のシナリオを検証してみましょう。 もし押しボタンと制御盤を結ぶケーブルがネズミの食害や経年劣化、物理的断線に見舞われていたとします。作業者が機械の巻き込まれ事故に直面し、渾身の力で非常停止ボタンを押しても、回路が断線しているため制御盤に「停止信号」が届きません。ボタンを押しても機械が暴走し続けるという最悪の大事故につながります。
一方、b接点(常時閉)で回路を組んでいた場合はどうなるでしょうか。 正常稼働中は常に閉回路として微小電流が流れています。作業者がボタンを押せば即座に接点が開き、電流が遮断されて機械が停止します。さらに決定的なのは、万が一ケーブルが断線したり、電源が喪失したり、端子のネジが緩んで抜け落ちたりした場合でも、回路は「遮断状態(=ボタンが押されたのと同じ状態)」を検知するという点です。
つまり、断線というトラブルが発生した瞬間に機械は自動的に緊急停止します。「壊れた瞬間に安全側(停止)に倒れる」。国際安全規格(ISO 13850 / IEC 60204-1)や労働安全衛生法に基づく基準においても、非常停止回路へのb接点(直接開路動作機構付き)の採用が義務付けられている理由はここにあります。