『新世紀エヴァンゲリオン』のキャラクターデザインを手掛けた漫画家・貞本義行。彼の手によって産み落とされた渚カヲルの骨格とシルエットには、徹底した引き算の美学が貫かれている。テレビシリーズ第24話「最後のシ者」で見せた、茜色の夕日を背に静かに微笑む佇まい。静寂な夜、月光を浴びながらピアノの鍵盤に指を走らせる細い手指。それら一つひとつの原画や作画監督修正には、視線誘導と光の陰影を高度に計算した構図が組み込まれていた。
当時の手描きアニメーションの現場において、カヲルの作画は特別な緊張感を伴っていた。画面上の線の本数自体は決して多くない。しかし、ほんの1ミリの線の揺らぎや傾きが、彼が漂わせる「人を超越した神聖さ」を霧散させてしまうからだ。作画スタッフの間で今なお語り継がれる秘話として、彼の表情を描く際には通常のアニメキャラクター以上の精密なニュアンスコントロールが要求されたという。線の太さ、眉の角度、瞳の光彩の微妙な位置。それら緻密なグラフィック表現の積み重ねこそが、時代を超えて語り継がれる歴史的名シーンを成立させたのだ。