多くの家庭で「もも肉は炒めるとパサつく」と感じる最大の理由は、部位の構造特性にあります。豚バラ肉の脂質が100gあたり約35gであるのに対し、豚もも肉(赤身)の脂質はわずか約3.6gしかありません。肉のジューシーさは脂質と水分によって保たれますが、もも肉は脂質が極端に少ないため、水分が抜けるとダイレクトに繊維質のパサつきとなって現れます。
さらに食品科学の観点から見ると、肉の主成分であるタンパク質(ミオシン・アクチン)は60度〜68度を超えると急激に熱変性を起こし、網目構造が縮んで内部の水分を一気に外へ絞り出してしまいます。強火で一気に炒めると、肉内部の水分が約20%〜30%も流出し、カチカチの食感になってしまうのです。
このパサパサを解消する鍵となるのが、「保水性の向上」と「加熱温度のコントロール」です。酒や少量の砂糖、マヨネーズに含まれる乳化油分をもみ込むことで筋繊維の間に水分を抱え込ませ、表面に薄い膜を張ることで、肉汁の流出を物理的に遮断することが可能になります。