巷では、次期『ミシュランガイド(Michelin Guide)』のセレクション入りが確実視されているとの観測が絶えない。星の獲得が現実味を帯びる中、飲食・外食産業全体を統括する日本フードサービス協会の関係者も「大衆食としての焼き鳥を、世界が認めるガストロノミーの領域へと完全に押し上げた稀有な実例」と惜しみない賛辞を送る。だが、店主自身はそうした外野の喧騒に冷ややかだ。
彼らが心血を注ぐのは、通い詰めた者だけが辿り着ける領域である。おまかせコースの終盤、目配せとともに供される常連限定の隠しメニュー――とりわけ、一羽から親指大しか取れない希少部位を秘伝の熟成ダレで何層にも重ね焼きした「手羽抱き身の薪燻製」や、鶏油を限界まで乳化させた「漆黒の鶏骨スープ」の存在は、知る人ぞ知る伝説となっている。メニュー表には一行も書かれていないその味を求め、富裕層や著名人が夜な夜なカウンターの片隅に身を潜める。