日本の二輪文化の礎を築いた本田技研工業の創業者・本田宗一郎は、誰でも手軽に乗れる移動手段としてパーソナルモビリティの理想を追い求めた。その結晶が名車スーパーカブであり、後のタクトやディオといった大ヒットスクーター群だ。
技術の進化は、人々のライフスタイルを劇的に変えた。そば屋の出前持ちから女子高生まで、生活のインフラとして根付いた乗り物は、近年では小説やアニメ『スーパーカブ』のヒットによって若い世代からも再評価されている。作中で描かれた「移動の自由」を手に入れる歓喜は、過酷な現代社会を生きる都市生活者の共感を呼んだ。
だが、本田宗一郎が築き上げたオートバイ産業の遺産は今、かつてない岐路に立たされている。単なる移動手段としての利便性だけでなく、環境負荷の低減と厳格化する交通安全規範の狭間で、マイクロモビリティとしての原付とスクーターは、そのアイデンティティを再定義することを迫られている。