初めて神保町を歩くなら、神保町駅のA6出口を起点にするのが定石だ。まずは靖国通りの南側、陽光を避けるように北向きに並ぶ古書店街のファサードを眺めながら歩く。直射日光による本の退色を防ぐために設計されたこの独特の街並みこそ、知の保存庫としての知恵である。
名著探しの秘訣は、店頭の100円均一ワゴンに惑わされず、薄暗い店内の奥に鎮座する「専門書棚」に臆せず足を踏み入れることにある。古書籍流通業の世界では、店主の目利きによって棚全体が一つの論文のように構成されている。美術、歴史、演劇、東洋医学——自分の関心がある分野の専門店を見つけたら、まずは店主の選書センスに身を委ねてほしい。探している本が決まっていなくても、棚の端から端へと視線を走らせるだけで、アルゴリズムが決して提示してくれない「偶然の出会い」が訪れるはずだ。
路地裏に潜む隠れ家的な小規模店を巡るなら、すずらん通りから一本入った細道へ。文庫本専門のワゴンや、映画パンフレットだけを天井まで積み上げた専門店など、偏愛に満ちた空間が待っている。