品書きにその名を見かけることは珍しいが、都内や関東近郊の蕎麦処を巡ると、今なお隠れた限定メニューとして「むじな」を提供し続ける名店が存在する。取材班が訪れた浅草の老舗店では、品書きの隅にひっそりと、あるいは常連客の「裏メニュー」として定着していた。
業界団体である東京都麺類協同組合の関係者は次のように語る。「むじなそばは、各店舗の個性が最も色濃く出るメニューです。油揚げの煮方、天かすの揚げ方、そしてツユの返し(醤油ダレ)のバランスが完璧でなければ、二つの具材の油分にツユが負けてしまいます」。
近年のレトロブームや本物志向の高まりを受け、多様化する現代の外食産業においても、この伝統的な限定メニューを復刻させる動きが加速している。冷やし仕立てでサクサク感を強調した夏限定のむじなや、餡掛け(あんかけ)にして熱々を閉じ込めた冬限定のむじななど、各店が趣向を凝らした一杯で食客を唸らせている。