「なぜ生きて帰ってきたのか」——基地に戻るたび、佐々木を待っていたのは称賛ではなく、上官たちからの激しい怒声と蔑称だった。軍司令部は彼が戦死したと早合点して大本営発表を行っていたため、生きて帰還されること自体が「不都合な真実」だったのだ。
この理不尽な軍組織の暗部を長年の取材で解き明かしたのが、劇作家・演出家の鴻上尚史氏である。鴻上氏は晩年の佐々木本人への直接インタビューを重ね、軍の参謀たちが面子を守るために何度も彼を死地へと送り出した実態を掘り起こした。「死んできます」と言わずに「行ってきます」と静かに答え続けた佐々木の姿は、同調圧力に支配された組織の狂気に対する、静かだが最も強い抵抗だった。