人間が何かに熱中するとき、脳内ではドーパミンやオキシトシンといった快楽や絆を司る神経伝達物質が活発に分泌されている。心理学の観点から見れば、対象への熱中とは自己のアイデンティティの一部をその作品や人物に投影するプロセスに他ならない。そのため、対象が突如として完結したり姿を消したりすると、脳は物理的な別離や対象の喪失と同様のショックを受ける。
これが、いわゆる「ロス症候群」と呼ばれる状態のメカニズムだ。毎日の習慣として組み込まれていた感情の報酬ループが突然遮断されることで、脳は一種の禁断症状に陥る。朝起きてから夜眠るまで、無意識に確保されていた「心の居場所」が消え去るのだから、強烈な無気力や脱力感に襲われるのは生物学的に極めて自然な反応といえる。