色川武大と伊集院静の深き絆をご存じでしょうか。世間では往々にして「文壇の大御所と、その薫陶を受けた弟子」という図式で語られがちですが、二人の関係の真相は、そのような定型的な師弟関係とは大きく異なります。出会いの発端は1980年代半ば、伊集院静が27歳で最愛の妻を白血病で失い、酒とギャンブルに溺れ、破滅の一途をたどっていた時期にさかのぼります。
当時の伊集院静は、生きる目標を完全に喪失し、自暴自棄な精神状態で街を徘徊していました。その彼を引き合わせたのが編集者たちであり、そこで相対したのが、すでに『麻雀放浪記』でピカレスク小説の頂点を極め、直木賞作家としても文壇に確固たる地位を築いていた色川武大でした。色川自身、幼少期からのナルコレプシー(過眠症)に苦しみ、社会の周縁でアウトローや勝負師たちと交わりながら生きてきた、筋金入りの無頼派作家でした。
色川は、荒れ狂う伊集院に対して説教を垂れることも、安易な慰めの言葉をかけることもしませんでした。ただ静かに傍らに寄り添い、ふいに居眠りを始め、目が覚めると穏やかな笑顔で言葉を交わす。伊集院静は後年の自著やインタビューにおいて、「先生は私が壊れていくのを、何も言わずにただ見守ってくれた」と述懐しています。傷つき打ちのめされた魂同士が、言葉を介さずとも本能的に理解し合った瞬間でした。