海軍甲事件において最も深刻な病巣は、死因の美化そのものよりも、その背景にあった暗号解読の事実に対する組織的な否認にあります。
【プロの結論】組織心理学が解き明かす「無謬性神話」の致命的リスク
当時、米軍が待ち伏せできた理由は暗号漏洩以外にあり得ませんでした。しかし、海軍中央の通信情報部門は「我が海軍の暗号書(JN-25)は世界一強固であり、解読されるはずがない」という組織の無謬性(むびゅうせい)に固執しました。「現地基地の誰かが日程を漏らした」「前線での電波探知による偶然の遭遇だ」と矮小化し、暗号システムの抜本的な更新を先送りにしたのです。
この認知の歪みは、社会学でいう「グループシンク(集団浅慮)」の典型例です。権威ある最高指揮官が暗号漏洩によって暗殺同然に討ち取られたという不都合な現実を受け入れることは、指導層全体の無能を認めることに他なりませんでした。そのため、組織防衛の防衛機制として「壮烈な端座戦死」という物語が捏造され、本質的な危機管理から目を背けたのです。結果として、その後のマリアナ沖海戦やレイテ沖海戦に至るまで日本軍の作戦行動は米軍に筒抜けとなり、破局的な被害を重ねることになりました。