SNSや大手検索プラットフォームで「感覚ミュージアム」と入力した際、サジェスト候補に「怖い」という単語が表示され、身構えてしまうユーザーは少なくありません。現地を取材した結論から言えば、この施設はお化け屋敷のような恐怖体験を意図した空間では一切ありません。それにもかかわらず、なぜ「怖い」という評判が独り歩きしてしまうのでしょうか。
最大の要因は、館内の「モノローグゾーン(瞑想空間)」に配置された作品群がもたらす感覚遮断(Sensory Deprivation)と、極端な知覚の揺らぎにあります。現代社会に生きる私たちは、無意識のうちにスマートフォンの強いバックライトや雑踏のノイズに囲まれて生活しています。そうした刺激過多の環境から切り離され、光が極限まで遮断された漆黒の通路や、反響音が消え去る無音の部屋へと突如足を踏み入れると、人間の脳は一時的な空間識失調(ディスオリエンテーション)を起こします。
環境心理学において、人間は自らの身体位置を把握するための視覚情報や音響手掛かりが失われると、本能的な防衛反応として軽微な恐怖や浮遊感を覚えることが実証されています。鏡の多面反射によって床の境界線が消え去る部屋や、靴を脱いで足の裏から伝わる微細な感触だけに頼るフロアなど、視覚優位の認知構造が崩される瞬間、人はそれを「怖い」と言語化してしまうのです。つまり、この噂の正体は低俗な恐怖演出ではなく、作品が鑑賞者の無意識に深く切り込んでいる証拠にほかなりません。