この大波乱を演出したのは、名門・矢野進厩舎の丹念な仕上げと、鞍上を務めた根本康広騎手の研ぎ澄まされた直感だった。プレッシャーに晒される有力馬たちが互いを牽制し合う展開のなか、失うもののない陣営が選択したのは、徹底した後方待機からの「大外一気」という極端な戦術だった。
根本騎手は馬の力を信じ、馬場状態の良い外ラチ沿いへと進路を選んだ。道中で無駄な脚を一切使わせず、直線の坂下で合図を送ると、愛馬は鞍上の気迫に応えるように凄まじい瞬発力を炸裂させた。敗色濃厚と思われた立場からの鮮やかな逆転劇は、勝負師の思い切った決断と人馬の呼吸が合致したときに生まれる奇跡の典型例である。