「なぜ家賃を無料にしてまで入居者を募集するのか」「後から法外な請求をされるのではないか」と疑問を抱くのは自然な反応です。しかし、この仕組みの背景にはフリーレントのからくりとも呼べる、貸主側の極めて合理的かつ現実的な経営計算が存在します。
オーナーが家賃そのものを値下げせず、あえてフリーレントを付与して募集する理由は、主に以下の3点に集約されます。
- 物件の資産価値と名目利回りの維持:不動産投資市場において、賃貸マンションやアパートの売却価格は「年間家賃収入÷利回り」で算出されます。月額家賃を1万円値下げしてしまうと、物件全体の資産評価額が数百万円単位で下落します。フリーレントであれば名目上の賃料設定を維持できるため、資産価値を毀損せずに済みます。
- 既存入居者との賃料トラブル防止:公に家賃を値下げして新規募集を行うと、同じ建物の既存入居者に知られた際に「私の部屋の家賃も下げてほしい」という値下げ交渉を誘発するリスクがあります。フリーレントという期間限定特典の形をとることで、既存契約者への波及を防ぎます。
- ポータルサイトでの検索優位性:多くのユーザーが物件を探すポータルサイトでは、「賃料上限」「フリーレントあり」といった条件検索が行われます。家賃設定を崩さずに検索上位へ露出させ、閲覧数を一気に稼ぐマーケティング手法としてフリーレントは大家のメリットに直結しています。
つまり、大家側からすれば「数ヶ月空室が続いて毎月の家賃が一切入らない状態」が続くよりも、「1ヶ月分をタダにしてでも即座に契約を結び、2年間の安定した家賃収入を確定させる」ほうが年間の総収益において圧倒的に有利になります。ボランティアや慈善事業ではなく、空室損失を最小限に食い止めるための高度なリスク管理手法なのです。