ネット上のQ&Aコミュニティ等で広まる深刻な誤解の一つに、「健診の心電図で正常と言われたから、胸の苦しさは100%ストレスのせいだ」という思い込みがあります。これは臨床的に極めて危険な認識と言わざるを得ません。
通常の安静時12誘導心電図は、検査を行っているわずか数十秒間の心臓の状態を切り取ったものに過ぎません。労作性狭心症の場合、安静にベッドに横たわっている状態では心電図に異常波形が現れないケースが過半数を占めます。
さらに見落とされやすいのが「冠攣縮(かんれんしゅく)性狭心症」です。これは動脈硬化による血管の狭窄ではなく、心臓の太い血管が異常な痙攣を起こして一時的に血流が途絶える疾患です。この発作は、運動中ではなく深夜から早朝の安静時、あるいは強い精神的ストレスや過労が重なった時に好発します。「安静時に起きているからストレス性の神経痛だろう」と軽視されがちですが、放置すれば心室細動などの致死性不整脈を誘発する深刻な病態です。
「ストレスがあるから心臓病ではない」のではなく、「精神的ストレスが引き金となって冠動脈の痙攣を誘発する」という機序を正しく理解しておく必要があります。