ネット上の観光情報やクイズ記事などで頻繁に見受けられるのが、「カルデラの内側にある湖はすべてカルデラ湖である」という短絡的な誤解です。その最たる例が、箱根の観光名所として名高い「芦ノ湖」です。
芦ノ湖の厳密な地質学的分類を検証すると、驚くべき事実が浮かび上がります。結論から言えば、芦ノ湖は「カルデラの中に位置する湖」ではあるものの、純粋な意味でのカルデラ陥没湖ではなく、「火山性堰止湖(カルデラ内堰止湖)」に分類されます。
神奈川県温泉地質研究所などの調査データが裏付ける芦ノ湖の成因は次の通りです。約3000年前、箱根カルデラの中央火口丘である神山が水蒸気爆発を起こし、山体の一部が大規模に崩壊(岩屑なだれ)を起こしました。この崩落した膨大な土砂が、当時カルデラ内を流れていた早川の上流部を完全にせき止めてしまったのです。その結果、行き場を失った水が谷に溜まり、現在のような細長い湖が誕生しました。陥没そのものが水を受け止めた屈斜路湖や支笏湖とは異なり、「カルデラ盆地の底で起きた山体崩壊による河川のせき止め」が直接の引き金となった点に、地形形成の奥深い妙味があります。
また、「阿蘇山は世界一のカルデラ湖である」という誤った言説も散見されます。熊本県の阿蘇カルデラは東西約18km、南北約25kmという圧倒的な規模を誇り、かつては広大なカルデラ湖が存在していた時期もありました。しかし、外輪山の西側(立野付近)が浸食や断層運動によって決壊し、白川・黒川となって外部へ排水されたため、現在湖水は残っていません。カルデラの底には約5万人もの人々が暮らす街や広大な農地が広がっており、「カルデラ湖」ではなく「カルデラ盆地」と呼ぶのが正確です。