足の裏に鋭い痛みや圧迫が加わった際、咄嗟に脚を引っ込める反応を「屈曲反射(屈曲逃避反射)」と呼びます。これ単体であれば単に危険から肢を遠ざける運動に過ぎませんが、二足歩行や四肢支持を前提とする動物にとって、片脚を不用意に上げればバランスを崩して転倒しかねません。そこで生体が備えている精巧なバックアップシステムが交叉性伸展反射です。
この反射弓を司る脊髄反射の伝導路は、非常に高度な神経回路網で構成されています。足底の侵害受容器(自由神経終末)が危険を感知すると、その求心性インパルスは細い有髄神経であるAδ線維や無髄のC線維を介して脊髄後角へと到達します。ここから単一のシナプスではなく、複数の介在ニューロンを中継する「多シナプス反射」として情報が処理されます。
脊髄内部では驚くべき二面的な司令が同時に下されます。刺激側の脊髄前角では、屈筋支配のα運動ニューロンが興奮して脚を引っ込めると同時に、Ia抑制性介在ニューロンを介して伸筋支配のα運動ニューロンに介在ニューロンによる抑制(相反神経支配)がかかります。これと全く同じタイミングで、刺激情報は脊髄の前交連を越えて対側(反対側)の灰白質へと伝達されます。
対側では真逆の興奮パターンが励起されます。すなわち、反対側の屈筋が抑制され、対側の伸展筋が強く収縮するのです。この一連の神経機構により、刺激を受けた側の脚は瞬時に宙へと逃れ、反対側の脚が柱のように突っ張って全体重を支えるという、驚異的な運動連鎖が無意識下で完結します。