「山野」という漢字を目にしたとき、大半の人が「やまの」と脳内変換するはずだ。実際、日本国内における苗字としての登録数は「やまの」が圧倒的多数を占めている。山と野原という身近な自然風景に由来し、古くから全国各地に自然発生的に広がった苗字の一つである。
だが、物語はここで終わらない。地名や特定の古い家系においては「さんや」と読むケースが確かに存在するのだ。とりわけ山間部や旧街道沿いの地域では、修験道や山岳信仰、あるいは「山野(さんや)を開墾した地」という土地の記憶と結びつき、音読みの「さんや」が定着した。日本の難読苗字・難読漢字の世界においては、訓読みと音読みのどちらを採用するかで意味合いや由緒がガラリと変わる場面が少なくない。名字のルーツを紐解くと、先祖が住んでいた地形や職種、あるいは地域の歴史的背景が色濃く反映されていることがよく分かる。