認知症の前段階として注視される「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」からの移行タイムラインは、医学界で徹底的な追跡調査が行われてきました。厚生労働省研究班および国際アルツハイマー病協会の追跡データによると、MCIと診断された人のうち、年間でおよそ5〜15%が本格的な認知症へと移行します。5年間で換算すると、約半数が認知症へと至る計算です。
一方で、生活改善や適切な医学介入によって、MCIの15〜40%は認知機能が健常領域へ回復する「リバート(健常化)」を果たすことも臨床現場の常識として定着しています。まさにMCIは、病気の進行を阻止できるか否かを分ける決定的な岐路と言えます。
2026年現在における疾患修飾薬(レカネマブ・ドナネマブ)の到達点と課題
2026年末に日本で保険適用された「レカネマブ(商品名レケンビ)」に続き、「ドナネマブ(商品名ケサンラ)」などアミロイドβを標的とする疾患修飾薬が本格導入された2026年現在、投薬現場では成果と現実の双方が浮き彫りになっています。
治験データが示した「進行を約27〜35%遅らせる」という効果は、時間に換算すると「約7ヶ月〜1年弱の進行猶予を獲得する」ことを意味します。決して失われた記憶分子を取り戻す若返りの薬ではなく、あくまで自立して過ごせる時期を先延ばしにする技術です。
加えて、2026年の医療現場では、投与対象が「MCI〜軽度認知症」かつ「PET検査やバイオマーカーで脳内アミロイド蓄積が証明された症例」に限定される点、さらに脳浮腫や微小出血(ARIA)に対する定期的なMRIモニタリング体制の担保が厳密に求められます。中等度以上に進展してからの投与は適応外となるため、初期兆候の察知がかつてないほど患者の将来を左右します。