音楽ジャンルごとのコミュニティに目を向けると、呼称の使い分けには極めて厳格な暗黙の了解が存在します。門外漢からは些細に見える言葉のチョイスに、各カルチャーが大切にするアイデンティティが刻まれています。
まず、クラシック音楽の領域において「ライブ」という表現が使われることは基本的にありません。クラシックコンサートの定義は、楽譜に忠実な音響的調和をアコースティックな生音で再現することにあり、観客の咳払いすら制限されるほどの静寂が芸術表現の一部として成立しています。ここでは演者と聴衆の間に明確な一線を引くことが格式を守る手段となります。
対照的なのが、ファンコミュニティ独自の言語感覚が発達したアイドル文化です。日本のアイドルシーンでは、全席指定の大規模ホールやアリーナ公演であっても「コンサート(または単にコン)」と呼ばれる歴史がありましたが、近年は「ライブ」、さらには活動全体を包括するスラングとして「現場(げんば)」という呼称が定着しました。ファン自身がペンライトの点灯やコールによってステージ演出の一翼を担うという強い当事者意識が、「現場に通う」という独特の能動的フレーズを生み出しています。
ロックやインディーズシーンで耳にする「ギグ(Gig)」は、ジャズやパンクのミュージシャンが使っていた「単発の短いセッション演奏」に由来し、商業的な興行臭を排したストリート感あふれる一夜限りの演奏を象徴します。さらに複数のアーティストが同時多発的に出演する「フェス(フェスティバル)」は、音楽鑑賞にとどまらず飲食やキャンプ、解放感を総合的に楽しむ祝祭空間として、単独コンサートとは完全に一線を画す体験を提供しています。