鉄道ファンのみならず、初見の旅行者が思わず立ち止まってしまうのが私市駅の読み方です。漢字の並びから「わたしいち」「しかいいち」と読まれがちですが、正しくは「きさいち」と読みます。
なぜこの漢字に「きさいち」という読みが当てられたのか、その背景には飛鳥・奈良時代にまで遡る深い歴史が存在します。歴史文献や交野市の地域史料によると、古代ヤマト王権において皇后(きさき)に仕えた私有民やその料地を「私部(きさきべ)」と呼んでいました。この「きさきべ」という発音が時代とともに「きさべ」へと短縮され、さらに物資が集まり市が立ったことで「きさいち」へと転訛したという説が有力です。
平安時代には貴族たちが鷹狩りや紅葉狩りを楽しんだ「交野ヶ原」の中心地として栄え、多くの和歌にも詠まれてきました。終着駅としての風格を漂わせる京阪電車交野線の私市駅は、三角屋根が印象的なウッディな駅舎を持ち、古のロマンと現代のアウトドア拠点が調和した独特の存在感を放っています。