宮本亜門は、2019年4月に長年親しまれてきた表記「宮本亜門」から、旧字体を用いた「宮本亞門」への改名を正式に発表しました。当時、この改名劇はがん公表のタイミングと重なったこともあり、多くのメディアで報じられました。
そもそも「亜門」という名前自体、本名(宮本亮次)ではなく、演出家として活動を始める際に自身で名付けたものです。「亜細亜(アジア)の門を開く」という壮大な志が込められており、日本だけに留まらず世界へ視野を広げるという若き日の決意の表れでした。
では、なぜキャリアの頂点を迎えていた時期に、あえて旧字体の「亞」へと戻したのでしょうか。公式発表や当時の手記によると、その背景には3つの決定的な理由が存在します。
- 「亞」の文字が持つ構造的な意味:「亞」という漢字には「二番目」「次ぐ」という意味のほか、背中を向け合った人間同士や境界線を繋ぐ象徴的な形が含まれています。自身が主役になるのではなく、他者と他者を繋ぎ合わせる「触媒」としての役割を全うするという意識の変革がありました。
- がん宣告による人生の「第2幕」の開幕:死をリアルに意識したことで、「これまでの人生(第1幕)は自分の夢を追う時間だった。これからの人生(第2幕)は、人々に勇気を与え、社会に還元する時間にする」という覚悟の表明でした。
- 原点回帰とアジア・地球規模への視点拡大:西洋中心主義の舞台芸術界において、東洋人としてのアイデンティティをより深く見つめ直し、アジア固有の身体性や美意識を世界へ発信し直す契機としました。
単なる画数の吉凶やオカルト的な改名ではなく、自身の死生観と表現者としてのミッションを再定義するための「宣言」であったことが分かります。