この邸宅が全国的なニュースとなったのは、新築計画が進んでいた2007年夏のことでした。閑静な住宅街に突如として出現する予定の「赤白ボーダー柄の外壁」に対し、一部の近隣住民が「街の景観を破壊し、平穏に生活する人格権(景観利益)を侵害する」として猛反発。工事差し止めを求める仮処分申請や本訴へと発展しました。
当時、テレビのワイドショーは連日この騒動をトップニュースで報道。楳図氏自身もトレードマークの赤白シャツ姿で会見に臨み、自らの表現活動と生活空間に対する真摯な思いを語りました。当時の記者会見やインタビューで楳図氏が語った言葉は、今もファンの記憶に強く刻まれています。
「赤は生命力やエネルギー、白は純粋さや清潔感。僕にとってこの2色は、自分の作品世界そのものであり、最も落ち着く色なんです。決して誰かを攻撃したり嫌がらせをするために選んだのではありません」
法廷闘争の焦点となったのは、「個人の敷地内における建築意匠の自由」と「地域住民が共有する景観の利益」のどちらが法的に優先されるかという点でした。そして2009年1月28日、東京地方裁判所(畠山稔裁判長)は住民側の請求を全面的に棄却する判決を下しました。
判決文では「周囲の景観と調和しているとは言い難い面はあるものの、受忍限度(社会生活上我慢すべき限度)を超える違法な権利侵害とは認められない」と明示。建築基準法や武蔵野市の条例に完全に適合していたことも決定打となり、楳図氏側の全面勝訴で司法判断は決着を見ました。