千代保稲荷神社に到着してまず驚かされるのが、お札やお守りの授与所が存在しない点です。神社側が「参拝者が神様のご利益を直接授かるべき」という質実剛健な姿勢を貫いているため、授与品販売やおみくじの取り扱いは一切行われていません。その代わりとして定着しているのが、油揚げとろうそくの奉納という独自の慣習です。
境内入口付近の露店や川魚店では、藁(わら)の紐に通された正方形の油揚げと小さなろうそくのセットが販売されています。参拝の手順は以下の通りです。
- 奉納セットの購入:手水舎の手前にある売店で、藁付きの油揚げとろうそく(1セット50円〜100円程度)を買い求めます。
- 献灯(灯明場):手水舎で手と口を清めた後、まずは「灯明場」へ向かい、ろうそくに火を灯して奉納します。
- 拝殿での参拝と油揚げ奉納:拝殿に進み、賽銭箱の上に設けられた専用の奉納台に藁ごと油揚げを供えます。二礼二拍手一礼の作法で商売繁盛や日頃の感謝を祈願します。この際、賽銭には「ご縁」にちなんだ5円玉や50円玉を投げ入れる参拝者が多く見られます。
- 霊狐塚(れいこづか)への参拝:本殿の裏手に位置する霊狐塚にも立ち寄り、無数に並ぶ狐の石像に手を合わせます。ここには祈願成就のお礼として奉納された信者からの御礼石がずらりと並んでおり、霊験あらたかな雰囲気が漂います。
- 「重軽石(おもかるいし)」での運勢占い:境内の片隅に鎮座する2基の丸い石を持ち上げて運勢を占います。まず石の前で一礼し、両手で一度持ち上げて重さを確認します。次に「願い事が叶うなら軽くなってください(あるいは重くなってください)」と念じ、もう一度持ち上げます。最初に持ったときよりも軽く感じられれば願いが叶いやすく、重く感じられた場合は努力や時期尚早を意味すると伝えられています。
お札やお守りがないからこそ、参拝者は賽銭と油揚げに純粋な祈りを込め、真摯に神前へ向き合う空気感が境内に満ちています。