物語のクライマックスで読者に強い衝撃を与えるのが、砂丘に到着した直後、大きな犬が現れてこんを連れ去ってしまう場面です。なぜ犬はこんをくわえて行ってしまったのか、そしてなぜ砂に埋めたのかという疑問は、大人の読者の間でもたびたび議論を呼びます。
この描写において、犬に悪意があったわけではありません。犬にとってこんは「やわらかくて遊びがいのある獲物・おもちゃ」に見えていたに過ぎず、土や砂の中に大事なものを隠すという犬本来の習性がリアルに描かれています。林明子氏は動物の生態を誇張することなく自然な形で物語に組み込むことで、子どもの日常に潜むリアルな危機感を巧みに表現しました。
こんとあきが目指した「さきゅうまち」のモデルが、鳥取県に実在する「鳥取砂丘」であることは広く知られています。林明子氏は制作にあたり、実際に鳥取砂丘や現地の鉄道を取材しました。絵本を開くと広がる圧倒的な砂の質感、日本海の風、夕暮れ時の淡い光のグラデーションは、丹念な現地取材の賜物です。砂からわずかに覗くこんの黄色いしっぽと耳を見つけたときのあきの安堵感は、広大な砂丘のスケール感があるからこそ、よりドラマチックに胸へと迫ります。