バラエティや情報番組の顔として認知されていた松居一代の名を、映画史に深く刻み込んだ作品が1987年公開の映画『マルサの女』(伊丹十三監督)だ。国税局査察官の活躍をリアルかつ痛快に描いた本作は、日本アカデミー賞を総なめにした伝説的傑作だが、松居は津川雅彦が演じたパチンコ店オーナーの「愛人・剣持和枝」役としてキャスティングされた。
作中で見せた宮本信子演じる査察官との対峙シーンや、愛人としての妖艶かつ生々しい色香を放つ演技は、映画評論家や観客から絶賛を浴びた。単なる美貌のタレントではなく、監督の要求に徹底して応えるプロの女優としての矜持を証明した瞬間だった。彼女は当時の手記の中で、「伊丹監督の現場は一切の妥協が許されず、ワンカットに対して全身全霊で挑んだ」と過酷な撮影現場を振り返っている。
その後も、映画『夜汽車』や『肉体の門』、テレビドラマでは大河ドラマ『花神』やサスペンス劇場など、数多くの作品でバイプレイヤーとして重宝された。スクリーンに映る当時の松居一代は、憂いを帯びた表情と芯の強さが同居しており、観客の視線を釘付けにする強烈な引力を放ち続けていた。