法務大臣が独断で特定の死刑囚を選んでサインしているわけではありません。死刑執行に至るまでには、法務省刑事局を中心とした極めて官僚的かつ厳格な手続きが組み敷かれています。
発端となるのは、死刑確定者が収容されている拘置所を管轄する地方検察庁および高等検察庁からの具申です。これを受けた法務省刑事局総務課の検察官(検事)たちが、確定記録、裁判記録、証拠品、拘置所内での生活状況や健康状態、恩赦出願や再審請求の進行状況を徹底的に精査します。これを「執行起案」と呼びます。
起案された書類は、刑事局長、矯正局長、保護局長、さらには法務事務次官らの回議を経て、最終段階で法務大臣の元へと上申されます。大臣に手渡されるのは、検察官が作成した膨大な調書と、最後に大臣が自筆で署名・押印するための「死刑執行命令書」です。
大臣が命令書に署名した後のスケジュールは極めて機械的です。刑事訴訟法476条の規定により、大臣の命令発令から5日以内に執行を完了しなければなりません。現場の拘置所では、心情の動揺による自殺や激しい抵抗を防ぐという名目で、本人への告知は執行当日の朝(概ね午前8時から9時頃)に行われ、教誨師との面談や遺書の作成、最後の飲食を経たのち、午前中のうちに刑が執行されます。家族や弁護人への事前通知は一切行われず、すべてが完了した後に事後通知される運用が長年続いています。