有馬川のほとりに佇む陶泉 御所坊は、昭和初期に建て替えられた木造3階建て・数寄屋造りの本館を中心に、時代を超えた陰影と美意識を今に伝えています。宿の名称は、足利義満が有馬逗留の際に宿泊所「御所」として定めた歴史に由来し、代々坊主格として温泉街の自治を担ってきた格式高い家柄です。
特に近代文学界との結びつきは深く、文豪・谷崎潤一郎は同宿を定宿とし、名作『細雪』の執筆や構想を練った場所としても知られています。館内には当時の調度品や書画、アンティークな洋風家具が調和し、足を踏み入れた瞬間から大正・昭和初期のサロン文化へタイムスリップしたかのような静謐な空気に包まれます。
単なる「古い宿」にとどまらず、2026年現在も熱心なファンを惹きつけてやまない理由は、独自の美意識を頑なに守りながら、現代の旅行者が求める清潔感とホスピタリティを高水準で維持している点にあります。