橋田壽賀子脚本が描いた数多くの登場人物の中でも、加津の境遇はひときわ過酷でした。父親である本間長次郎と、母親のみのり(熊谷真実)の不仲・離婚問題に巻き込まれ、叔父である本間英作(植草克秀)と長子(藤田朋子)の家庭、ひいてはお食事処「おかくら」へと預けられたのが始まりです。親の愛情に飢えながらも「おかくらの居候」として気丈に振る舞い、調理や仕込みを手伝いながら、鋭い正論で大人たちを黙らせる姿は視聴者の涙と共感を誘いました。
2010年から2011年にかけて放送された連続ドラマの集大成『最終シリーズ(第10シリーズ)』において、高校生へと成長した加津の進路選択が物語の大きな軸となります。学業成績が極めて優秀だった加津は、周囲から東京大学への進学を嘱望されるほどの秀才に育っていました。しかし、加津が選んだのはエリート街道をひた走ることではなく、農業を営みながら懸命に生活基盤を立て直そうとしていた実の母親・みのりと向き合う道でした。
長子をはじめとする岡倉家への深い感謝を抱きつつも、加津は親子の絆を取り戻すため、そして自らの力で生きていくために母親のもとへ身を寄せる選択を下します。連続ドラマ最終回の結末において、加津は「親に振り回される可哀想な子供」から脱却し、自らの意志で人生を切り拓く一人の自立した女性として岡倉家から巣立っていきました。
その後、2012年や2013年に放送された単発の『渡る世間は鬼ばかり 最終回スペシャル』でも元気な姿を見せていた加津ですが、物語の最終章となる2015年以降のスペシャルドラマでは、画面上に直接登場しなくなります。劇中では「母親のみのりと元気に暮らしている」「学問や自分の道に励んでいる」といったセリフによって近況が語られるにとどまり、これが視聴者の間で「かずちゃんはどこへ消えたのか」という大きな関心事となりました。