SNSや知恵袋などの恋愛相談コミュニティで後を絶たないのが、「好きな人が夢に出てくるのは、相手が自分を強く想っている証拠」というロマンチックな言説です。この言説に心を救われる人が多い一方で、認知科学や精神分析の観点から見ると、事実は少々異なる構造を持っています。
歴史を遡れば、平安時代の歌人・小野小町が「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ(あの人のことを想いながら眠ったから夢に出てきたのだろうか)」と詠んだように、日本では古来「相手が自分を思っているからこそ夢に現れる」とする通念(夢逢い)が存在しました。この民俗学的伝承が、現代のスピリチュアルな言説と結びつき、ネット上でまことしやかに拡散されている背景があります。
精神分析の始祖ジグムント・フロイトが喝破した通り、夢の本質的な機能の一つは「願望充足(Wish-Fulfillment)」です。日頃抑圧されている「相手と親しくなりたい」「触れ合いたい」という感情が、理性のタガが外れるレム睡眠中に視覚化されます。つまり、潜在意識と願望夢のメカニズムが働いているケースが大半を占めるのが冷徹な事実です。
加えて、脳科学の視点では、日中に相手のSNSをチェックしたりLINEの文面を推敲したりした記憶刺激が、海馬から大脳皮質へ送られる過程で統合され、夢の映像として再生されます。「相手が想っている」のではなく、「自分が相手で脳のメモリを満杯にしている」ことの証明に他なりません。