英語圏で『アナと雪の女王』について語る際、誰もが口にする作品名は『Frozen』(フローズン)です。「Anna and the Snow Queen」と言っても、コアなディズニーファンでなければ首をかしげられてしまうのが現実です。
なぜディズニーは、長年にわたり愛されてきたハンス・クリスチャン・アンデルセンの古典童話『雪の女王』(原題:The Snow Queen)を原作としながら、タイトルから「Snow Queen」の看板を完全に降ろしたのでしょうか。映画ジャーナリズムにおける定説および制作陣の過去の公式インタビューを振り返ると、そこにはディズニーのアニメーション映画戦略における大きな転換点が浮かび上がります。
最大の契機となったのは、2010年に公開された『塔の上のラプンツェル』でした。同作の制作初期、英語タイトルは主人公の名前そのものである『Rapunzel』と名付けられていました。しかし、直前に公開された『プリンセスと魔法のキス』(2009年)が、作品としての高い評価にもかかわらず、興行収入の面で男児層の獲得に苦戦したデータが残されています。ディズニー経営陣は「タイトルにプリンセスの名前や『姫』が入っていると、少年や男性観客が劇場から足を遠ざけてしまう」と分析。そこでラプンツェルを、髪が絡まる状態と人間関係の葛藤を象徴する形容詞『Tangled』(タングルド=もつれた、絡まった)へと改題した経緯があります。
この命名戦略の成功を受け、アンデルセン童話の映画化企画でも「The Snow Queen」という伝統的なプリンセス童話の枠組みを脱却する方針が採られました。凍りついたアレンデール王国だけでなく、トラウマによって他者との関係を閉ざしたエルサの心、そして凍りついた姉妹の絆を表す言葉として、過去分詞一単語の『Frozen』が選ばれたのです。