凄惨な現場を取材すると、必ずと言っていいほど浮上するのが「なぜ家族同然の犬同士が共食いしてしまうのか」という疑問です。そこには冷酷な悪意ではなく、生物としての限界を超えた過酷な環境が関係しています。
犬が同種を捕食する決定的な背景には、犬の多頭飼育崩壊で共食いが起きる理由として医学的・行動学的に実証されている「生体飢餓の極限」が存在します。飼育崩壊の末期現場では、数週間から1ヶ月以上にわたって固形フードも新鮮な水も与えられない事態が常態化します。体内の脂肪と筋肉を使い果たした犬は、激しい低血糖と脱水に襲われ、犬の餓死と極限環境の心理状態へと追い込まれます。
「ドアを開けた瞬間、激しい悪臭とともに、衰弱死した子犬の遺骸を取り囲んで貪り食う成犬たちの姿があった。彼らの瞳には攻撃性ではなく、ただ飢えと恐怖しか残っていなかった」——現場に立ち会ったベテラン保護活動者は、当時の特番インタビューで声を震わせながらこのように証言しています。
群れで生活するイヌ科動物には本来、社会的な絆と順位付けが存在します。しかし、生きるか死ぬかの境界線に達したとき、生存を司る脳幹の原始的本能が理性的・社会的な制御を完全に凌駕します。最初に衰弱して息絶えた個体や、抵抗力の弱い幼犬・老犬の遺体が、他の個体にとって唯一のタンパク質源となってしまうのです。これは攻撃的な殺傷行動というよりも、力尽きた死骸を消費して生き延びようとする過酷な防衛本能の結果です。