映画『潜水服は蝶の夢を見る』衝撃の実話と切なすぎる結末の真相

映画『潜水服は蝶の夢を見る』衝撃の実話と切なすぎる結末の真相

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インターネット上の解説やレビュー記事において、本作はしばしば「家族愛に支えられた聖者の感動の奇跡」というテンプレ的な美談として括られがちです。しかし、これは原作本および映画が提示した本質を見誤る大きな盲点です。

ジャン=ドミニク・ボビーは決して「清廉潔白な聖人」ではありませんでした。倒れる前の彼は、華やかなファッション業界で浮名を流し、家庭を顧みず、愛人を作り、贅沢とスノビズムに浸っていた生身の俗物でした。発症後も、彼は病室で美貌の理学療法士や言語療法士に対して露骨な性的関心や美的好奇心を抱き、自分を哀れみの目で見る見舞客に対しては頭の中で辛辣な毒舌を浴びせています。

また、実話における人間関係も極めて複雑でした。献身的に看病に通った子どもの母親(事実婚関係にあったパートナー)がいる一方で、彼が最後に電話をかけ、死の間際まで愛を渇望したのは当時の愛人でした。映画版でも、愛人からの電話を元パートナーが代弁してジャン=ドに伝えるという、胃がキリキリと痛むような残酷でリアルな心理劇が克明に描かれています。

人間が極限の状況に追い込まれたとき、聖人へと突然変異するわけではありません。エゴイズム、嫉妬、悔恨、肉欲、そしてシニカルな笑い。それら生々しい業(ごう)を抱えたまま、それでもなお精神を高く保とうとしたからこそ、ジャン=ドの手記は読む者の心を深く抉るのです。安易な感動ポルノへの回収を拒絶するこの厳しさこそが、本作が名作と呼ばれる最大の理由です。

鈴木 陽菜
著者

鈴木 陽菜

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