なすの切り口を放置すると、みるみるうちに茶褐色へと変化していきます。この現象の引き金となるのが、なすに含まれる褐変酵素ポリフェノール(主にクロロゲン酸などのポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼという酵素)です。切断によって細胞が破壊され、空気中の酸素と酵素が結びつくことで酸化反応が起き、メラニン様の褐色物質が生成されます。
水にさらす最大の目的は、空気を遮断してこの酸化反応を物理的に食い止め、なす黒ずみ防止と渋みの元を洗い流すことにあります。かつてなすのアク抜き理由として「えぐみを取るため」と強く教えられていたのは、在来種や昔の露地栽培なすにおいてポリフェノールやアルカロイド系の渋み成分が強かった時代の名残でもあります。
一方で、ネット上で囁かれる「水にさらすと栄養が逃げる」という指摘は、紛れもない科学的事実です。なすの代表的なポリフェノールであるなす栄養成分ナスニンは、鮮やかな紫色の皮部に多く含まれるアントシアニン系色素であり、水溶性の性質を持っています。さらに、余分なナトリウムを体外に排出するカリウムや、微量に含まれるビタミンC・ビタミンB群も水溶性です。切断断面から水分子が入り込むことで、浸透圧と拡散現象により、これらの微量栄養素が浸漬水の中へ容易に溶出していきます。
栄養を守りながら料理を美しく仕上げるには、「水にさらす目的が色止めなのか、味の雑味取りなのか」を料理ごとに峻別する知識が欠かせません。