若本規夫の語り口に宿る凄まじい威圧感と重厚さの根源は、声優界でも類を見ない過酷なバックボーンにあります。
山口県で生まれ、大阪で育った若本は、早稲田大学法学部を卒業。その後、一般企業ではなく警視庁機動隊に入隊するという異例の進路を選択しました。在隊中は、全共闘運動の激化に伴う東大安田講堂事件や新宿騒乱事件など、昭和の激動期における最前線の警備・治安維持任務に従事。文字通り「命のやり取り」が行われる現場で、極限の緊張感と人間模様を肌で体感しました。
さらに、少林寺拳法三段、全日本拳法連盟三段の武道歴を誇り、身体の重心操作や丹田(下腹部)から声を押し出す呼吸法は、この過酷な鍛錬時代に培われたものです。機動隊退職後は業界新聞記者や日本消費者連盟の事務局員などを経験。25歳の時、知人の紹介で黒沢良氏主宰の劇団オーディションを偶然受けたことがきっかけとなり、声優の世界へと足を踏み入れました。
「修羅場をくぐり抜けてきた男の腹の括り方」が、マイク前に立った際の声の密度となり、他の追随を許さない絶対的な存在感を生み出しています。