高橋まつりさんは、厳しい家庭環境の中で努力を重ね、東京大学文学部を卒業して電通という超大手企業の内定を勝ち取った。この輝かしい経歴こそが、彼女にとって誇りであると同時に、決して手放すことのできない「重圧」となっていた可能性がある。
日本の社会において、名門大学から大手企業への就職は、いわゆる「人生の成功ルート」と見なされやすい。特に、母子家庭で育ち、母親を楽にさせたいという強い思いを抱いていた彼女にとって、電通でのキャリアは自分自身だけでなく家族の希望でもあった。せっかく掴み取ったチケットを自分の手で捨てること、あるいは「早期退職」というレッテルを貼られることに対する恐怖心は、私たちが想像する以上に大きかったはずだ。挫折を知らずに努力で成果を出してきた人間ほど、「自分が耐えれば解決する」と抱え込みがちになる。