「風船を膨らませるガスが余ったから、吸って声を変えてみよう」という軽はずみな思いつきは、重大な事故を招きます。純度100%に近いヘリウムガスを肺いっぱいに吸い込むと、肺の中の酸素濃度が一瞬でゼロ近くまで希釈されます。
恐ろしいのは、人間が息を止めたときに感じる「苦しさ」は血中二酸化炭素濃度の上昇によって引き起こされるという点です。純ヘリウムを吸った場合、二酸化炭素は呼気として排出されるため息苦しさを自覚できません。脳内の酸素だけが急激に奪われる「無酸素脳症」や「失神」が予告なしに一瞬で発生します。
日本国内でも過去、テレビ番組の収録現場で女性アイドルグループのメンバーがパーティー企画中に誤った濃度のガスを吸い込み、意識不明の重体となる痛ましい事故が発生しました。この事故では、脳卒中に似た脳空気塞栓症と診断され、長期の治療を余儀なくされた経緯が報じられています。
吸いすぎによる後遺症には、短時間の酸素途絶であっても脳細胞の壊死、記憶障害、運動機能障害などが挙げられます。立った状態で吸引して意識を失い、転倒して頭蓋骨骨折や外傷性脳損傷を負う二次災害の事例も報告されています。