物語の発端は大阪。ヒロインの朝子(唐田えりか)は、掴みどころのないミステリアスな青年・麦(ばく/東出昌大)と運命的な恋に落ちます。しかし麦はある日、「必ず戻る」と言い残したまま忽然と姿を消してしまいます。それから数年後、東京のカフェで働く朝子の前に現れたのは、麦と寸分違わぬ顔をした会社員・亮平(東出昌大・二役)でした。関西弁で喋り、実直で誠実、麦とは正反対の温かさを持つ亮平に最初は戸惑い拒絶する朝子でしたが、やがて彼の真摯な愛情を受け入れ、二人は同棲を始めます。
平穏な年月が流れ、仙台への転勤と結婚を控えた矢先、モデルとして突如成功を収めた麦が朝子の前に現れます。「朝子、行こう」と手を差し伸べられた瞬間、朝子は亮平の手を振りほどき、麦の車に飛び乗ってしまいます。このあまりに身勝手で直情的な行動は、観客に強烈な戦慄を与えました。しかし、北海道へ向かう車中、夜明けの海を前にした朝子はふと我に返り、「私、何してるんだろう」と麦に告げ、一人電車に乗って亮平のもとへ引き返します。
結末で朝子は、亮平の暮らす大阪のアパートを訪れます。激昂した亮平は朝子を突き放し、「一生許さへん。一生お前を疑い続ける」と拒絶の言葉を叩きつけます。それでも朝子は「それでも、ここにいたい」と立ち去りません。ラストカットで二人は、豪雨によって茶色く濁り、激しく増水した川を見つめます。亮平が吐き捨てるように言った「汚い川やな」に対し、朝子は前を向いたまま「でも、すごく綺麗」と静かに返します。カメラはその濁流をじっと捉え続け、映画は幕を閉じます。
なぜ朝子は引き返し、亮平は激しい拒絶を示しながらも彼女を部屋に入れたのか。朝子が求めていた麦は「実体のない夢」であり、北海道へ向かう道中でその虚妄性に気づいた瞬間、彼女は現実へと引き戻されました。一方の亮平は、朝子を赦したわけではありません。「一生信じない」と明言しながらも共に暮らす決断を下したことは、もはや無垢な恋愛感情ではなく、互いの醜さや裏切りをすべて引き受けた上での、極めて生々しく過酷な「契約」としての共生を選んだことを示しています。