物語のクライマックス、産屋敷邸を単身襲撃した鬼舞辻無惨に対し、耀哉とあまねが取った行動は、屋敷全体に仕掛けた大量の火薬とまきびしによる「一家自爆」でした。
なぜあまねは生き残る道を選ばず、自ら命を絶つ道を選んだのか。そこには、千年間生き延びてきた無惨という怪物の心理を逆手に取った、冷徹な戦術計算がありました。
無惨は極めて猜疑心が強く、わずかでも罠の気配を感じれば即座に逃走します。もし当主である耀哉だけが残り、妻や子供たちが避難していれば、無惨は伏兵や策略を警戒して間合いを取ったはずです。長年連れ添った妻のあまね、そして無邪気に手毬をつく幼い娘(ひなき・にちか)が側に平然と侍っている光景を見せることで、無惨に「病気で死にかけの当主が逃げ場を失って家族と共に諦めている」と誤認させ、油断を誘う必要があったのです。
あまねにとってこの死は、夫に強制された殉死ではありません。鬼殺隊が千年の悲願を達成するための唯一無二の機会を自ら作り出すという、主体的な参戦でした。自らの命を撒き餌として差し出し、珠世による人間化薬の投与と柱たちの奇襲へと繋げたその決断は、作中屈指の凄絶な名場面として語り継がれています。