日本全国のお雑煮を見渡すと、東日本の「角餅・すまし汁」、西日本の「丸餅・白味噌仕立て」という二大潮流が有名ですが、あずき雑煮は地理的に極めて興味深い局所的広がりを見せています。
あずき雑煮の最大の本拠地は、島根県の出雲地方から鳥取県の中西部(米子市・倉吉市・鳥取市周辺)にかけての日本海沿岸部です。鳥取県や島根県の郷土料理調査資料によると、この地域における正月三が日のあずき雑煮喫食率は極めて高く、一部自治体のアンケート調査では約6割から7割以上の世帯が「元旦、あるいは三が日のいずれかの日にあずき雑煮を食べる」と回答しています。
興味深いことに、山陰全域が均一にあずき雑煮一色というわけではありません。例えば島根県でも、石見地方に入るとすまし汁に鮎や黒豆を入れる地域が存在し、隠岐諸島では魚介の出汁を使った雑煮が主流になります。さらに鳥取市内では、元旦の朝にあずき雑煮を食べ、2日目には醤油仕立てのすまし雑煮に切り替えるという「ハイブリッド型」の家庭も数多く見受けられます。
また、あずき雑煮は山陰だけの専売特許ではありません。日本海航路である北前船の寄港地であった石川県の能登半島の一部や、福井県の嶺北地方、京都府北部の丹後地方、さらには熊本県の一部地域にも小豆を使った雑煮の文化が点在しています。香川県の有名な「あんもち雑煮(白味噌の汁に餡入りの丸餅を入れる)」も含め、かつて海運によって文化や物資が運ばれた沿岸部に甘味雑煮の文化が根付いている点は、日本の食文化交流史を物語る決定的な証拠です。