ガラス越しにエイのお腹を見上げたとき、誰しも一度は「つぶらな瞳でこちらを見つめ、にっこりと微笑んでいる」と感じた経験があるはずです。しかし、結論から述べるとエイの顔の正体は、頭部の「腹面(裏側)」に並ぶ呼吸器系と感覚器官の集合体に過ぎません。
なかでも最大の誤解を生んでいるのが、目のように見える小さな2つの窪みです。この部位は目ではなく、エイの顔の鼻の穴(外鼻孔)にあたります。エイの嗅覚は極めて鋭敏で、水中に漂う微小なアミノ酸や獲物の体液を感知するために、この鼻孔が常に水流を取り込んでいます。人間のように呼吸に使うわけではなく、純粋に匂いを嗅ぐための感覚器官として独立しているのが特徴です。
そして、その鼻の穴の下でゆるやかにカーブを描いているのが「口」です。エイの顎は海底の甲殻類や貝類を殻ごと噛み砕くために非常に強力な筋肉で覆われており、安静にしている状態の骨格配置が、偶然にも人間が微笑んでいる口元と酷似した形状を形作っています。この鼻孔と口、さらにその両脇や下部に整然と並ぶ鰓孔(エラの穴)が織りなす配置こそが、水族館の来館者を魅了してやまない「笑顔」の正体です。