犬がぶどうやレーズンを食べることで重篤な中毒症状に陥る現象は、2000年代初頭から米国動物虐待防止協会(ASPCA)の動物毒物管理センター(APCC)などによって警告されてきました。長年にわたり「農薬残留物説」「重金属説」「マイコトキシン(カビ毒)説」など様々な仮説が議論されてきましたが、近年の獣医毒性学研究によって、ぶどう類に高濃度で含まれる「酒石酸(Tartaric acid)」およびその塩類(重酒石酸カリウムなど)が犬の腎臓に対して強い毒性を示す主因であることが有力視されています。
犬の体内では、酒石酸を安全に代謝・排泄する経路が人間とは根本的に異なり、過剰な負荷がかかると腎臓の最小単位であるネフロン、特に近位尿細管上皮細胞に急速な変性・壊死を引き起こします。これにより、血液中の老廃物をろ過して尿を作る機能が突然停止し、劇症型の急性腎不全(AKI)へと進行します。
「皮を剥けば安全」「種を取り除けば大丈夫」という説は完全な誤りです。毒性物質は果肉・果汁・皮・種のすべてに均一に含まれており、巨峰、シャインマスカット、デラウェア、ピオーネ、マスカットなど、ぶどうの品種や産地を問わずすべてのぶどう類が猛毒となります。