台風のたまごが発生した際、私たちが最も注視すべきは日本上陸の可能性です。これを見極める鍵は、南洋の雲の形そのものよりも「日本周辺を取り巻く大気圧の配置」にあります。
台風は自力で移動する力が弱く、基本的には上空の風(太平洋高気圧の縁を回る風や、中緯度上空を流れる偏西風)に流される「浮き草」のような存在です。夏の最盛期、太平洋高気圧が本州をすっぽりと力強く覆っている時期は、台風のたまごは高気圧の縁を迂回するように沖縄から東シナ海、中国大陸方面へと押し流されます。ところが秋口(8月下旬〜10月)にかけて高気圧の勢力が後退し、日本列島の上に「高気圧の切れ目」が生じると、そこが台風の通り道(コリドー)となり、列島を直撃するコースが完成します。
さらに見逃せないのが近海の海水温です。かつては北緯30度(屋久島付近)以北の海域に進むと海水温が低下し、台風は急速に衰えるのが通例でした。しかし近年の気象データでは、日本の南岸から本州沖合にかけて平年比+1.5℃〜2.0℃もの高水温域が長期化する事例が頻発しています。このため、一度たまごから台風へ昇格した低気圧が、本州上陸直前までエネルギーを補給し続け、強い勢力を保ったまま直撃する危険なシナリオが現実化しています。
気象庁進路予想図に示される予報円の大きさは、「台風の大きさを表す円」ではなく「台風の中心が70%の確率で入る範囲」を示しています。発生初期の予報円が大きいのは進路のブレ幅が広いためであり、「予報円が大きい=巨大な台風が来る」と捉えるのは典型的な誤読です。予報円の輪郭ではなく、中心を結ぶ線と周囲の気圧配置を俯瞰してリスクを見積もる視点が欠かせません。